
2007-02-12 Mon 01:26
「一斑から三班、目標07、四班、五班は、目標08・・・・・・」 MSが戦艦に乗り込み、戦後、再建されたマスドライバー『カグヤ』から、宇宙へ旅立っていく。 地球上の国々は、それぞれが、軍を出し、ユニウスセブンの破砕作業を進めていた。 カガリは、右往左往する官僚や事務員に手際よく指示を出していた。デュランダル議長も、本国と連絡を取り合うのに忙しい。 「すまないが、アスハ代表。ラクス・クライン議員を知らないだろうか?」 「ラクス? 部屋にいるのではないですか」 「いや、応答がない」 デュランダルは首を横に振った。 カガリは、、眉をひそめた昨晩キラの元へ行くといってはいたが、朝には戻っているといっていた。 ラクスは、約束を破るような性格ではない。こんな非常事態に、寝坊しているとも考えにくい。 「クライン議員を探しに出させよう。ただ、この混乱が収まるまでは人員は避けないのだが・・・・・・」 「わかっています」 「しかし、ユニウスセブンの落下から地球を守ったときには、必ず全力を尽くします」 「そうか、ありがとう」 カガリと握手を交わした議長は、満足げに微笑んだ。 「ユニウスセブンは、ZAFT軍108個に分かたれた。、そのうち半数は、 大気圏突入によって燃え尽きてしまうものです。しかし、残ったものは地球に落下してしまう」 モニターを見ながら、カガリはつぶやいた。言葉にするだけで暗く沈みこんでしまいそうな事実に、脂汗が浮かぶ。 「威力が小さくなったとはいえ、その一つ一つが、核並みの破壊力を持っているとすれば、一個も落とすべきではないぞ」 ユウナは、背筋を伸ばし、こぶしを振り上げ叫んだ。 「それはわかるが・・・・・・」 カガリは、頭に手を当て、椅子にもたれかかった。やるべき指示は出した。だが、成功するかはわからない。 政治家がこれ以上何を叫ぼうが、あとは前線で活動する兵士しだいなのだ。 ※ 出撃のためにリフトに手をかけていたアレックスは、近づく二人の人影に気づいた。 「きみたちも出てくれるのか?」 「はい。あなたの指揮下に入っては再作業に参加するというのは、議長直々のご命令です。第一、これがコーディネーターのテロリストの仕業だとしても、このような暴挙を許す議長ではありません。そして、私も同じ気持ちです」 二人とは、ZAFT軍のレイとルナマリアだった。 レイは、端正な顔立ちを崩さずきっぱりとそういうと、直立の姿勢のままアレックスをまっすぐと見ていた。 「では、指揮系統上私の指揮に従ってもらう。ZAFTの赤服だ。プライドが許さないかもしれないが」 「プライドなど、今は、気にしているときではありません」 レイは首を振った。 「そうか、わかった。時間がない。では、すぐに発進する」 「いやっ……、私はいやよ」 そのとき、レイの後ろに控えていたルナマリアが突然声を上げた。 「ルナマリア、何を言っているんだ」 レイが制しても、ルナマリアは話すのをやめようとしない。 「あなた、オーブ軍ってことは、ナチュラルなんでしょ。私、ナチュラルの男は大っ嫌いなのよっ」 「ルナマリアッ」 レイは、眉間にしわを寄せるルナマリアの二の腕をつかんだ。 アスランは、、間に割ってはいると、ルナマリアを見た。 「『ルナマリア・ホーク』と言ったな」 「ええ、そうよ」 「どうして、そんなにナチュラルの男を嫌う。ナチュラルとコーディネーター何がそんなに違うというんだ」 「全然、違うわよっ。私は降りるわ。だいたい、自分の命さえ助かれば、地球がどうなろうと知ったことじゃないわ」 「待て、今は、君の力が必要なんだ、ルナマリア。それに、俺は、コーディネーターだ」 「何で、コーディネーターなのに、オーブ軍なんかに?」 「ルナマリア、議長の命令だぞ。わかっているのか」 「わかったわよ。それに、コーディネーターだっていうんなら、いいわ。私も作戦に参加します」 「よし、では、全員MSに搭乗の上、ヨシノ級宇宙戦艦『シラカ』内で待機」 「了解」 アスランの指揮する11部隊の面々が声をそろえて敬礼をした。 ルナマリアだけが、気まずそうに視線をそらしていた。 ※ 「もう、こんなに近くなのか」 宇宙へあがったアレックスたちを待っていたのは、地球の大気圏に差し迫る巨大な塊だった。 「地上に激突するまであと5分。阻止臨界点に到達するまであと3分です」 ルナマリアのきびきびとした声が、回線越しに響く。 アレックスは、もう一度、手袋を治した。久しぶりの宇宙。そして、敵がいないとはいえ、久しぶりの実戦だ。 「全員聞こえるか? 味方誤射を避けるため、ブルーデルタ5の地点に集合し、その地点から集中砲火を開始する! タイムリミットは、3分だ」 ドォゥッ! ビーム砲がいっせいに火を噴いた。全長1キロほどのユニウスセブンのかけらは炎に包まれ、赤く染まる。 欠片は地響きのような大きな音を立てて震え、さらに細かい破片を撒き散らした。 欠片は、大気圏へ引かれ、火の玉となって消滅した。 「まだまだだ」 アレックスは依然として巨大なユニウスセブンを睨みつけた。 「あと、2分」 硬質なレイの声が、残酷な事実を告げる。アレックスは、ビームを連射し、ユニウスセブンにぶつけていく。半円を描いて、 ビームはその地表へと吸い込まれていく。 間に合うだろうか。 レバーを握る手が汗に濡れる。 「隊長ッ」 「どうした、ルナマリア」 「ZAFTのMS、2接近。攻撃してきます。位置はオレンジブラボー」 「上かっ」 甲高い警戒音が鳴り始める。見上げるとそこには、ジンの姿があった。 「あれは、テロリストだ。正規軍ではない。俺とルナマリアで敵を迎撃する。残りのものは、ユニウスセブンの破砕作業を続けてくれ!」 ジンハイマニューバⅡ型はZAFT軍の制式MSだが、黒く塗装されたものはない。 アレックスは部隊を残し、ジンへと向かった。すでに、ルナマリアと交戦を始めていた。 二機のMSは、ルナマリアを翻弄していたが、アレックスの乱入により、一対一に分かれた。 「これ以上はやらせんっ!」 ジンのパイロットサトーは、深く刻まれた皺をよせて叫んだ。ユニウスセブンはすでにZAFT軍の粉砕作業により、108個に分かたれてしまっている。これ以上砕かれては、大気圏突入時に燃え尽きてしまう。 ぶつぶつと途切れながら入ってくる聞き覚えのない声にはっとしてアレックスは周波数を合わせた。 「なぜこんなことをするっ」 アレックスは、搭乗機であるM1Aアストレイの71式ビームライフルを放ちながら、敵との間合いを詰めいてく。 「プラントは今、間違った方向に進もうとしている。コーディネーターにとってパトリック・ザラのとった道こそ、唯一正しい道なのだ」 「違うっ! コーディネーターとナチュラルの融和の道こそ目指すべき道だっ」 「そんな平和を目指して何になるのだ。所詮、砂上の楼閣、夢幻に過ぎん」 「俺達は理解しあえる。またあの悪夢を始めるつもりなのかっ」 「いまの゛平和゛こそが悪夢なのだ」 互いに刃を重ねながら、アレックスとジンのパイロット、サトーの心はけして交わらない。二人の間にパイロットスーツなしでは生きていけない虚無の宇宙空間があるように、二人の溝もまた深い。 技術力ではアレックスが上回っているが、自らの死すら恐れないサトーの攻撃にアレックスは身をかわすことしかできない。 「きゃーーっ」 ルナマリアのほうを見ると、ザクの右肩が硝煙をあげていた。 「くそっ」 早く、目の前の敵を倒さなくてはならない。思うようにスピードが出せない。だが、この機体で、ジャスティスほどの機動力を期待するほうが難しい。 「これでどうだ!」 手に持っていた70式ビームサーベルを投げつけると、ブースターをふかし、ジンの横手に回りこんだ。 ジンは、飛んできたサーベルを払いのけるのに、大きくバランスを崩した。 「うわあっ。何をするっ」 サトーの顔は青ざめていた。ソードをかわした安堵もつかの間、目前にはアストレイが迫っていたからだ。 ライフルの発射口が光る。やがて、サトーは光がはじけるのを感じ、身を焦がす熱い熱を感じた。 「新世界革命党に栄光あ――」 いい終わるのを待たず、サトーの体はジンハイマニューバとともに宇宙の塵と化した。 「赤服の力っ、みせてやるっ」 ハンドグレネードを投げつけると同時に、距離をとってザクのM1500 オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲を放った。エネルギーの塊は、もう一機のジンに命中し、ルナマリアは、笑顔を浮かべた。 「よくやったな。ルナマリア」 「当然です。私は赤服、そして、新型機のパイロットですから」 誇りを取り戻した少女の声が凛と響いた。 ※ 「再度、集中放火せよ」 副官のドリスは、アレックスにかわって指揮を取っていた。 「待ってください」 「アレックス隊長が戦闘を行っている間、粉砕作業の識見は私にあるのだぞ」 「わかっています。ただ、私の計算ではこの物体の重心は417 303 379の位置です。そこを狙うのが効率的です」 「貴官……、コーディネーターか」 けして単純な形ではないユニウスセブンの重心を瞬時に求めるなど、この少年は、いったいどんなスピードと能力で計算を行ったというのか。ナチュラルのドリスには想像のつかない話だった。 「まあ、よい。全員目標09の417 303 379を狙え、てー!」 放った炎にさらされて、ユニウスセブンは震えた。熱にさらされて外壁が細かい破片を散らした。だが、まだ、全体に亀裂は入っていない。 「手を休めるなっ」 副隊長のドリスは大声を出すことで不安をうち消そうとした。しかし、モニターに移る作業限界時間が一分をきったのを見て、冷静ではいられなくなった。 今、ここにあるユニウスセブンが地球に落下することで、幾千、いや、幾万の人間が死ぬことになるのだ。 アレックスとルナマリアも隊に帰ってきた。 「30秒……、20秒……、10秒……」 隊員の誰もが、祖国オー部に暮らす家族の顔を思い浮かべていた。 しかし、時間は誰の束縛も受けず無常に過ぎ去っていく。 そして――。 ※ 「ガカリ・ユラ・アスハ代表、お願いします」 フラッシュの海をくぐって、カガリが壇上の中央に進み出た。 「先ほど、行政府に入った情報を発表します。オーブ直撃コースをたどっていたユニウスセブンの破片、目標09は、14:37をもって無事破壊されました」 記者たちのみならず、そこに居合わせた誰もが、歓声を上げた。 安堵の表情が、会場の硬い空気を和ませた。カガリも、そこにミリアリアの姿を見つけ、ほほを緩ませた。だが、これで終わりというわけにはいかなかった。 「しかし! オーブ沖、30kmに目標08が落下いたします。津波警報を発令します。また、東アジア連邦、シャオタン。北ユーラシア連合 、ノエフ。ユーラシアの南にあるジャエル。また、西ユーラシア西海岸沖20km。アフリカ大陸クドの各地点に破片が落下いたします」 カガリは、人々の興奮に水を浴びせるように厳しい声を発した。会場は水を打ったように静まり返った。 「オーブは、その各地域にできる限りの援助をしたいと考えております」 「そこに軍を派遣することはかんがえておられるのですか?」 「それは考えておりません。オーブの軍は国を守るためのみ存在します」 「それでは、金銭的な援助ということになりますか? オーブは、また人を出さないと非難されるのではありませんか?」 「軍は出さないと申しあげましたが、技術者などの派遣は考えております」 「治安の悪くなるであろう被災地での技術者の安全はどう確保なさるおつもりですか?」 記者の質問にカガリは顔を歪めた。いったいどの選択をすれば、記者たちが納得するというのだろう。 「それは今後の検討課題にいたします」 カガリは、深いため息とともに、壇上を降りた。 ※ 4日後。 「シン・アスカ二等兵。刑期終了により、解放する」 重い扉がゆっくりと開き、一週間ぶりに見る外のまぶしさに目を細めた。だが、気持ちは、空のように晴れ晴れとしたものではなく、むしろ、重苦しいさに支配されていた。 「おい、ユニウスセブンは再作業の功労者の受勲式典は、10:00からだってよ」 「じゃあ、もうじき始まるな。行ってみるか?」 宿舎に戻ろうとしていたシンの耳にそんな兵達の会話が飛び込んできた。 「功労者の受勲式典?」 シンは、兵士達のあとを追うことにした。 屋外の会場にはすでに、基地の兵士達が大勢集まっていた。壇上のメンバーを眺めていると、そこにアレックス・ディスの姿があった。 カガリ・ユラ・アスハ代表から、勲章を授けられると、会場から、拍手が沸き起こった。 「くそっ」 シンは、それだけ言ってその場をあとにした。 続く NEXT PHASE 崩れゆく平和 スポンサーサイト
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2007-02-04 Sun 15:07
少年がひとり、黒髪の頭部をひざに埋めて泣いている。 そこへ、その少年よりも、さらにちいさな少女がサンダルを砂にまみれさせながら、近づいてくる。 「おにいちゃん」 「マユ……。よせよ、来るなよ」 少年は、面を上げ、少女を睨む。 「おにいちゃん」 しかし、少女は、そこを離れる様子もなく、少年の向かいでうずくまる。 「来るなって言ってんだろ! 僕は、お前の『お兄ちゃん』なんかじゃないんだ! おまえだってしってたんだろっ!」 まゆは、 何も応えず、じっと、少年をみつめた。 「かあさんも、とうさんもひどいや。僕だけがしらなかったんだ! 僕が本当は血の繋がらない子供だったなんて!」 少年は緋色の目に涙をにじませ、近くの砂を力任せに投げた。 「っ……」 狙ったわけではなかったが、少年の投げた砂はマユの目に入ったらしい。 目を押さえうめく少女に、少年は、慌てて近づいた。 「ごめん、マユ。そんなつもりじゃ」 「うん……、もう、へいき。それよりも、おにいちゃんにくるなっていわれるほうが、マユはずっと、いたい」 マユは、少し赤くなった目をまっすぐに少年に向けた。 「おにいちゃん、あのね。マユはおにいちゃんとちがつながっていなくても、おにいちゃんのこと『たいせつ』だよ。ママもパパもきっとおなじだよ」 マユの茶色い瞳は、澄んでいた。 「ごめん、マユ。ぼくは、ただ……」 秘密にされていた。そのことが少し悲しかっただけだ。 シンにとっても、マユも、父も母も、血が繋がっていなくたって、大切な存在だ。自分たちの間に重大な秘密など何もないのだと信じていたからこそ、堪えたのだ。 だけど--。 マユが、隣で優しく笑う。 それだけで、いいか。 シンは、思った。 自分が本当は誰の子供なのかという問いは、宇宙がどのように始まったかという問いに似ている。大切な問いだけど、今、生きていくのに必要な問いじゃないんだ。 シンとマユは黙ったまま、しばらく、陽光にきらめく波を見ていた。 そのとき、耳を劈くサイレンが鳴り響いた。 ※ サイレンの音に、シンは硬いベッドから飛び起きた。 生々しい夢の感覚が頭を支配していて、目の前の現実がどことなくおぼつかない。 湿り気を帯びた暗く陰鬱なコンクリートの長方形。三日三晩見た光景は、何の変化もない。 汗で張り付いた髪の毛が、埃にまみれてつやを失っているだけだ。 唯一光を取り入れることができる格子のついた窓ガラスを、甲高いサイレンの音が、びりびりとあるわせていた。 辺りが騒がしい。扉の向こうに小さな窓から叫ぶ。 「何だ、何がおきたんだっ!」 看守がドアの前を通り過ぎていく。シンの言葉を聞こうともしない。 「アレックス・ディノ曹長」 突き当たりに収監されているアレックスを看守がくぐもった声で呼んだ。シンは、背筋を震わせた。 「出てください、非常時につき、解放せよとの代表からの命令です」 カシャン。 電子ロックが開く音がし、つかつかと硬い床を二人の足音がそろって通り過ぎていく。 「俺はっ! 俺だって!!」 小窓の鉄格子を揺さぶるが、無常にも足音は遠ざかっていく。そして、重い営倉の扉が閉められ、非情な静寂だけが残った。 「ちくしょー」 脱力したシンは、壁ぎわに座り込み、頭を抱えた。 どうして、アレックス曹長は解放されて、自分はされないのだろうーー。 俺には、まだ、゛力゛がないと、そういうことなのかーー。 視線の先に、光が見えた。シンは、おもむろに立ち上がると、外に面している窓に手を伸ばした。ジャンプをすると、格子につかまることができた。 が、引っ張ってみても、簡単に開くものではない。 シンは、力なくその場にへたり込んだ。 ※ 「ルナマリア、いるな? あけるぞ」 「いいわ」 レイは、サイレン音が鳴り響く中、隣室にいるはずのルナマリアの元へ向かった。 ルナマリアはいすから立ち上がり、レイを迎えた。 『お姉ちゃん、何、何があったの?』 ルナマリアは、コンピューターで本国と通信していたらしい。モニターには彼女の一切したの妹が、心配げな顔でこちらを見つめている。 同じ、軍のアカデミーで学んだのだから、当然見知っている。 「メイリン。大丈夫よ、大丈夫。私もなんだかわからないけど、じゃあ、仕事だから、きるわね」 「お姉ちゃんーー」 まだ何かいいだけな妹を回線の向こうにひとり残し通信を中断したルナマリアは、制服の上着を着込みながらこちらに駆け寄ってきた。 「レイ。このサイレンーー」 「わからない。今は急いで議長の下に」 「ええ」 ※ 「なんてことだ!!」 カガリは怒りとも悲しみとも取れるような表情で、語気を荒げた。 「やっぱりねー。こうなる気がしていたんだよ」 いすにもたれかかってユウナ・ロマ・セイランは、他人事のような口調でぼやいた。 「こんなことがないようにと、先日の会見で冷静を呼びかけたばかりだというのに」 陰鬱な声を出し、デュランダルは組んでいる両手を額に当てた。 「現在位置、デルタ8 毎時20km、重力による加速度15m/s2 九時間後には、地球に衝突します」 緊急対策会議に招集された科学者は端的に事実を伝えた。 「ZAFTの軍事拠点から遠いポイントにユニウスセブンが、やってくるのを見計らって仕掛けてきたのか。 宙域のZAFT軍に全艦発信命令を出したが、大気圏突入までに砕ききることができるだろうか・・・・・」 デュランダル議長の歯切れの悪い言葉に、カガリは、表情をこわばらせた。 「全軍、配備完了はまだかっ! 整い次第第一陣出撃させよ」 大声を張り上げたのは、迫りくる不安を追い払うため。 今までに経験したことのない未曾有の恐怖がカガリの心を重くした。 ※ 「重営倉はここね」 首から提げているカメラをもてあそびながら、ミリアリア・ハウは オーブ軍基地の周りをうろうろと歩いていた。山間に食い込んだ形で、ほとんど人目につかない当たりに基地の重営倉はあった。 四年前の終戦と同時に軍を辞め、報道カメラマンの道を歩んでいたミリアリアは、去年、戦争中に知り合ったディアッカ・エルスマンと結婚していた。 彼女の薬指には銀色のリングが光っている。 オーブの代表と知り合いだということも会って、「オーブ・プラント間有効条約締結会議」の取材を上司から命じられたのは、数日前。 しかしシャトル襲撃事件のせいで、会議が延期になって、ミリアリアは暇だった。 「あのときのパイロット、命令違反で今頃はここに入れられてんじゃないかしら」 昔、キラが駆っていたMSに酷似した機体が空を待っていたのを見たときには驚きを隠せなかったが、それよりも、それを駆っているオーブ軍人の正体が気になった。 フェンス越しに覗き見ていたミリアリアは、腰の携帯の振動に気づき、慌てて通話ボタンを押した。 『ミリアリア・エルスマンか?』 電話は本社からだった。 「はい」 『大変なことになったぞ実はーー』 「何ですって!」 話の内容にミリアリアは、強く頭を打ち付けたような衝撃を感じた。 「わかりました。はい、もちろんです」 電話を切って、再び歩み始めたが、、ショックで足元がおぼつかない。 「うわっ」 斜面になっていてただでさえ歩きづらい場所でよたよたと歩いていたミリアリアは、木の根に足を取られてしまった。 重力に引っ張られるままに、斜面を転がり、派手な音を立て、フェンスに激突してしまった。 電流が流れていたようで、フェンスに触れた右腕部分のジャケットが黒く焦げ付き蒸気が上がっていた。 「顔をぶつけなくてよかった」 ほっとため息を漏らしたミリアリアの耳が、何かの音を捉えた。 「おい、誰かいるのか!?」 「えっ、どこ?」 かけられた声の主がどこにいるのかわからず、周囲を見回した。 すると、ミリアリアの青緑色の目に重営倉の窓から顔をのぞかせている少年の姿が映った。 「あなたは、だれ?」 「こっちに来てくれ、お願いだ。ここから出たいんだ!」 「でも、入れないわ、電流がーー」 「そこから、左へ三つ。そこのフェンスは、断線している。 まだ、修理されていないはずだ」 「えっ?」 取材現場に乗り込む千載一遇のチャンスだ。が、見つかれば、ただではすまない。ミリアリアは戸惑って棒立ちになっていた。 「早く、お願いだっ!」 赤い目の少年の必死な顔に、ミリアリアは思わず断線しているフェンスのほうに足を向けていた。恐る恐る手をかけると、少年の行ったことが間違え出なかったことを知った。おもむろにフェンスを登り始めると、少年は顔をほころばせた。 「ドライバーもってないですか? なければ、金属片でもーー」 「金属って、コインなら持っているけど、――何をする気なの?」 「もちろん、 格子をはずしてここから脱出する!」」 ミリアリアは一笑にふそうとしたが、少年の真剣な表情が、その思いが冗談ではないことをミリアリアに知らしめた。 「待ちなさいよ。あなた、ここにいるってことは軍紀違反を犯したんでしょ? 脱獄なんかしたら、今度こそ絶対に不名誉除隊させられるわよ」 少年は伏目がちになり押し黙った。しかし、再び向き直って叫んだ。 「だけど、何か悪いことが起きたんだろ? ナノに、俺は、ここでこうして指をくわえてみてなきゃならないっ。そんななさけないことってあるか?」 「あなた一人ががんばったって、どうにもならないわ」 ミリアリアは冷たく突き放した。 「だけど、俺は、あの新型機――GUNDAM――を動かせるんだ!」 「新型機って、まさかあなたがあの襲撃事件のときフリーダムを動かしたパイロットなの?」 「そうだよ。俺がシャトルを守ったんだ!」 「あなた、ナチュラルよね」 「そうだよ」 ミリアリアは絶句した。コーディネーターであるキラが、操っていた機体を若いナチュラルの少年が動かしていたとはにわかに信じがたい事実だった。 少年と同じように、キラもあの機体をGUNDAMと呼んでいたことがあった。不思議な縁を感じ、ミリアリアが唖然としていると少年が話しかけてきた。 「あんた、今回のこと何か知ってるのか?」 「ええ、知っているわ」 「何があったんだ?」 「ユニウスセブンがプラントのテロリスト達の手によって地球落下軌道に乗せられてしまったのよ」 さっき本社からもたらされたばかりの真実をミリアリアは恐る恐る言葉にした。いっているミリアリア自身、その事実に身の毛がよだつ思いだった。 初めて聞かされた少年は、驚きのあまり声をなくしていた。 |
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